総理事長 坂口 海雲

            Mikumo Sakaguchi

メッセージ

初めまして、笑顔会グループ 総理事長の坂口海雲です。
わたしが、笑顔会グループを作ろうと思ったきっかけをお話しします。少しだけお付き合い願えたらと思います。

約10年前、心臓を専門に診察する医師として、だんだんとスキルが身についてくるにしたがって、見えてきたことがあります。それは、「病気を治すこと」と「患者さんを幸せにすること」は違うということです。

ある、重症大動脈弁狭窄症を患った78歳の男性を治療していた時のことです。その患者さんは心不全と慢性呼吸器疾患を併発していました。とても予後の悪い状態です。わたしは、その患者さんへ正直に病気のことを伝えることにしました。

「この病気は手術しないと治りません。手術はかなり危険で10%ぐらい死ぬ確率があります。もし成功しても、寝たきりになったり認知症になるかもしれません。ただ、手術しないとあと1年は生きられません。」

その男性は、ゆっくり目をつぶってしばらく考えてこう答えてくれました。

「ぼけたり、寝たきりには絶対なりたくありません。もう十分生きたので、死んだりすることは怖くないんです。ただ…」

「ただ?」

「もう一度、桜の花の下でお酒を飲みたい」

冬の寒い時期でした。その日から、わたしと患者さんの戦いが始まりました。心臓にはものすごい爆弾を抱えているので、症状を見ながら、綱渡りのような薬物調整の連続です。それでもなかなか一筋縄ではいきません。お薬だけではなく、大病院ならではの他の問題もいろいろありました。

今でも、思い出します。循環器内科部長はわたしと顔を合わすたびにこう言いました。

「あの患者さんは、手術しないと治すことができないぐらいお前も知っているだろう。どれだけ薬物を調整したって無駄なんだ。それとも、そんなこともわからないぐらいお前は馬鹿なのか?」

心臓血管外科部長はこうです。

「おい、あの患者はいつ切らせてくれるんだ?」

どれだけ言ってもみんなわかってくれません。最後は、わたしもあまりに腹が立ったので、

「あの患者さんは、お花見をしたいんですよ。手術をしないと治らないことぐらいわかっています。わたしの医師免許をかけて治療をしますので、口出しをしないでください。」

本当に生意気な、若手循環器内科医でした。

そんなこんなで、いろいろありましたがとうとうお花見の日を迎えることが出来たのです。

「先生ありがとう。これで本当にいつ死んでもいいよ。」

あの笑顔は忘れることができません。

「いやいや、来年の花見まで頑張りましょうよ。」

そんな風に言っていたのですが、病気は無情です。梅雨のじめじめした季節に、細菌性腸炎に罹患したことから、一気に循環動態が悪化して亡くなってしまいました。

わたしが医師を目指したのは、病気を治したかったからではなく、病気で困ってる患者さんを助けたかったからです。大きな病院に勤めていると、病気は治せても、患者さんを本当に幸せにすることは難しいのが現実です。先ほどの男性も、わたしがいなかったら、言葉は悪いですが無理に手術をさせられていたかもしれません。

「大病院で難しいなら、本当に患者さんを笑顔にできる医療機関を自分で作ればいいじゃないか。」

だから、笑顔会グループには「笑顔」という文字が入っているのです。患者さんが本当に笑顔になれる医療機関を作ろうという思いからです。当グループにいらっしゃる皆さんが、笑顔になっていただけるように日々精進してまいりたいと思います。